『方丈記』を読み直す、その1『色即是空』

行く川の流れは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみ

に浮かぶうたかた(泡、渦)は、かつ消えかつ結び久しくと

どまることなし。

世の中にある人とすみかと、またかくの如し。。。。。

 

 この文節は般若心経の

    色即是空

の具体的表現である。色は万物、物体のこと、空は運動や

変化のこと。運動や変化は表現しようもなく、静止と不静止

という矛盾である。エンゲルス弁証法はこの矛盾を指摘

する。

 釈迦はマルクスエンゲルス以前の遠い昔にこの自然哲学

を悟った。そしてその神髄の例として鴨長明は鴨川の水面に

浮かぶ『うたかた』の運動と変化を述べた。

 科学が未発達のそのころ、鴨長明が言えるのはそこまで。

後は、人生のはかなさを例として述べる。今の仏教の大部

分が同じことをやっている。すなわち『世の中にある人の

はかない運命』について、『またかくの如し』と。

 このはない運命として鴨長明は長々と自然災害のこと

を列挙する。

 

 治承4年卯月29日のころ、御門京極のほどより、大なる

つじ風起こりて。。。。家の内のたから、数をつくして空

にあがり。。。

 

 これは台風、熱帯性低気圧、雷雲などにともなう大規模

なつむじ風、今の気象学で言う『塵旋風』であったかもし

れない。しかしこれは極めて大規模な被害であったので竜

巻であったかもしれない。なにしろ『富める家も貧しき家

も、何もかもすべて空に舞い上がった』というのだから。