右門捕物帖、銭形平次捕物控、旗本退屈男、そこはうれしいタイムスリップ

花の大江戸八百八町、そこを流れる神田川、墨田川

石神井川、荒川、江戸川、日本橋川。。。そこには

おびただしい橋がかかっていて、事件はきまって、

この橋の上か、橋のたもと、あるいはその下を行き来

する舟の上で起こる。

 もの語りの事件そのものは現代と比べるとはるか

に面白みはない。ピストルもなければ毒薬もない

から、事件の規模も小さい。その点で読んだ夜、いや

な夢を見ることもない。

 だから私が江戸捕り物帖が大好きなのは事件や右門

や平次のあざやかな謎解きではない。彼らが

活躍する江戸の町の風景なのだ。特に浅草、吉原、

神田、日本橋あたり。ちょうど私が上野鈴本、人形

町末広、浅草演芸場と渡り歩いたあたり。

 作者たちの江戸下町の風景や長屋風景は微に入り細に

いる。まるで見てきたようではないか。江戸時代の小説

は少ないから、これらの作家たちはどこで資料を手に入

れたのか。またそれをどうやって手に入れたのか。

  『。。。東両国に小屋を出した眼吉の化け物屋敷。。

奥山の化け物屋敷。。。』

 たしかに江戸時代、最大の、庶民が楽しむ見世物

は歌舞伎でも寄席でもなくこの化け物屋敷だった。し

かし、この化け物屋敷のことを書いてある資料はど

こにあるのか。あることす信じられない。作者たちは

見事にその資料を探し出す。

 かくして彼ら描く江戸の町、江戸の風物、江戸っ子

はイキイキとして登場する。その江戸の町で私もウロ

ウロ、ちょろちょ。恋もする。江戸小町娘と。つかぬ

まのタイムスリップ。