死に行く門出の花と匂いと光の『花枕』(正岡子規)を読む

光という天使と匂という天使が森の中にお花畑を

作っている。すみれ、おだまき、桜草、ちょうじ

そう、げんげ、母子草、きんぼうげ、金仙花、福

寿草など。『見よ、光よ、いろどり良からずや。』

  花の冠、とこしえに

   わがあやまちのかたみなり

    色濃き藤の花輪世に。。。

 ここに14,5の少女がやってきてこのお花畑

にうっとりして里のママ母のいじめに泣く。泣きく

たびれて花の中に寝てしまう。

 くだんの天使二人、この少女の身の上を知ってて

この子を可憐、憐憫の情にて助けようとする。つま

り天に連れ帰ろうとして舞い上がる。途中でふと少

女は気がつく。そうだ、家には妹がいた。この妹も

同じママ母にいじめられている。この妹も一緒に、

天国に連れて行かねば。天使匂と光の止めるのも

きかず、地上めがけて落下する。

 お花畑の花乱舞するただ中に落ちてしまう。

 

 悲しい物語だが正岡子規の晩年を思うとこの天使

の作るお花畑の悲しくも美しい心情が読み取れて、

心が痛む。子規1902年没。34歳。たった34歳。

死を迎えるまでの10年間ほど、結核によって生死を

さまよっていた。晩年はまったく身動きもできなく

なった。それでも文章を書き短歌、俳句を詠んだ。

 死の瀬戸際に浮かぶ光景は天国の光と芳しい匂い

であっただろう。それが天使となってお花畑をつく

る。有り余る才能がありながら34歳で死ななければ

ならない子規。体がまったく動かいのに、何のために

苦痛をしのんでこの小説を書いたのか。

 それは誰も知らない。