那須サイエンスカフェ第2回、報告

那須サイエンスカフェ2019第2回
セルロースナノファイバーの発見、鉄の文明の終わり」
                 2019年10月5日18:00~ 稲村公民館
・基調講演
大学の科学分野はほとんど物理学を土台にしている。理学部は、物理学中心になっており、化学は、量子力学を使って明らかにされており、薬学なども量子物理学の利用といえる。
一方生物学は遺伝子構造の解明が進み、DNAの複製によって起こ塩基配列が遺伝情報を担っていることが解り、ワトソンとクリックがDNAの二重らせん構造を見つけ、1962年にノーベル生理・医学賞を受賞する。
機械は電気と磁気で動くが、人間の体は量子力学共有結合(2個の原子がそれぞれ不対電子を出し合って電子対を作り、この電子対を2個の原子が共有する)で動くことが解明され、生物物理学が発展してきた。人間の体、特に心臓など分子が回転する分子モーターであり、腕の曲げ伸ばしなどは、筋繊維を一方向に動かすリニアモーターではないかと言われている。
……1962年位に、ノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹京都大学教授は、中央公論に「物理学は行き着くところに行きついた」と語り、私(大槻)は、反論するために京都大学で面会したが言い出せなかった。湯川博士は「これからは生物物理、宇宙物理だ」語ったことが印象に残っている……。
私の友人の青野修自治医科大学名誉教授(プラズマ物理核融合)は、木材を研究し繊維構造を調べた。木材を切ると繊維の束があり、その繊維を切るとまた繊維の束が現れる。私が毎年冬に滞在していサイパンが、数年前巨大ハリケーンに襲われた。ホテルのガラスが粉々になるほどの甚大な被害なのに、ヤシの木はしっかり残っていた。ヤシの木をナイフで切ってみると直径3㎜の繊維の束が現れ、その繊維を切ってみると直径0.2㎜の線維の束が現れ、その先は電子顕微鏡で見ても繊維の束であろう。精緻な階層構造の細胞壁が、大きな樹木を支えていることが解る。
樹木がセルロース分子の集合体であることに着目し、木質科学の第一人者東大大学院の磯貝明博士は、セルロース以外を取り除く「TEMPO酸化触媒法」を用い、繊維を1ミクロンの数百分の1以下のナノオーダーに微細化したバイオマス素材である「セルロースナノファイバー(以下CNF)」を開発した。これにより森林学の最高賞といわれるマルクス・ヴァレンベリ賞(スウェーデン)を受賞する。CNFは生産、廃棄の環境負荷が小さく、鋼鉄の5分の1の軽さで5倍の強度を持ちながら、弾性率はアラミド線維並みなので加工しやすく、線熱膨張率はガラスの1/50。高いガスバリア性を持ち、生体適合性に優れるなど、まさに夢の素材といえる。
この発見は、有史以前から現在まで続く鉄の時代の終焉を告げている。鉄の文明を象徴するように、歴代経団連会長に製鉄会社の社長が多いが、CNFの製品化には軒並み大手製紙会社が参入し、「紙と木材の時代」に変貌するだろう。
・質疑・意見等に対する教授の回答
 ①植物由来であるにも関わらず、熱にも摩擦にも強く2,000度に耐えるため、車のエンジンブロックにも活用できる。
 ②基本特許は日本が持つが、それ以外の特許は中国が多く、今後先導的役割を果たすのは中国ではないか。
 ③カーボンナノファイバーより広範囲の活用ができる。
 ④CNFの有害性も調べられているが、現在までアスベストのよう健康被害は確認されていないようだ。
 ⑤建築材料に使用した場合経年劣化については、酸化して錆びることないだろうし微生物が食べられる硬さではないだろうが、今後の研究を待ちたい。

     (稲見記)

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